眠れなかった。
いや正しくは、うつらうつらとしてはいても、夢うつつに奴の姿が脳裏にちらついて消えなかったのだ。
桂は寝転がったまま、薄目を開けてぼんやりと外を見やった。
庭から障子越しに強く差し込んでくる日差しで、もうすっかり日が高く昇っている事が知れる。
文机の上に置かれた小さな置時計を見ると、いつもの桂ならばもうとっくに起きて活動を始めている時間だった。
それでも起き上がるのはひどく億劫に感じて、ぐずぐずと再び布団にもぐり込む。
きっともう小一時間もすれば、仲間が訪ねて来るだろう。
昨日の転生郷事件の詳細と、その後の顛末を報告するためにやってくるはずだ。
それまでには起きて身支度を整え、きちんと迎える準備をしなければならない。
そう思いながらも、桂は布団の中で寝返りを打った。
意識は昨日の、自分の記憶を辿っては桂の身をじりじりと焦がす。
昨日、春雨の船に乗り込んでから、銀時がどう動くか、考えるよりも先に自分の体もまた動いていた。
それは懐かしいなどという感じではなくて、そんなことさえ忘れさせるような感覚だった。
するりと勝手に動いた体は、銀時の動きとぴったり合致した。
数週間前の再会では桂のやり方に異を唱え、すげなく振ったことさえ忘れてしまいそうなほどだった。
今の銀時と桂は、目指すものはもう違うのかもしれない。
それでも、自分達は今またそばにいる。
戦場にいた頃よりも、もっとずっと前から。
散々一緒にいた時間は消えるわけではなく、久しぶりに共に剣を振るえばまるで離れていたことなど無かったかのように息はぴたりと合うのだ。
今でも。
ふぅ、と溜息をついて桂はもう一度身じろいだ。
自分の長い髪が枕とこすれて、微かな音が耳に響く。
あぁ、この気持ちをどうしようか。
布団に包まったまま、膝を折り曲げてぎゅっと腹を抱えこんだ。
腹が痛い。
鳩尾が熱い。
あぁ、何か生まれでもしたらどうしてくれるんだ。
「やっぱり今でも俺は」
呟いた声は布団の中で反響して、桂の耳だけに届いた。