朝を告げる小鳥のさえずりなんてものに反応して目が覚めた銀時は、そんな芸当をしてみせた自分に対して驚いていた。
まだ半ば夢の中をさまよいながら眠い瞼を押しあけると、眠る前と寸分変わりない万事屋の和室は窓から差し込んだ光で薄暗い程度の明るさを保っている。
軒先にでも留まりに来ているのか、窓の外からは先程から雀の鳴き声が聞こえていた。
カーテンの閉まったままの窓辺を見やって、まぁいいかと視線を戻せば昨日から泊りに来ていた桂の寝顔が目に入った。
こちらも昨日から変わりなしと思って、桂が寝ているのに自分だけ先に起きる必要も感じられず、温もりのうつった布団の中で二度寝の幸せに浸ろうと銀時は再び意識を手離そうとした。
相変わらず顔だけは文句のつけようのない寝顔を見るともなしに見ていると、ふいに桂がチュンチュンと囀る雀の鳴き声にピクリと反応を返す。 
その小さく震えたものを目にして、銀時は一気にまどろみから覚醒する。眠気を吹っ飛ばした銀時の目の前では、外から聞こえてくる音に反応するようにピクピクと桂の耳が動いていた。
いつもの見慣れた白い貝殻みたいなやつは、もちろん今もしっかり桂の顔の横にくっついてじっとしている。
それではなくて、寝乱れた桂の長い黒髪に隠れるように、しかし明らかに髪とは異なる物質でできた二つの三角形が頭の上に突き出していたのだ。
「ニャー!」
思わず叫んで銀時は固まる。今の声は猫耳を生やしている桂の声、ではなくて「なんじゃこりゃー!」と叫んだつもりの銀時の口から出てきた声だった。
銀時の悲鳴にまたピクリと耳を震わせて、桂がパチリと目を覚ます。そしてその口から紡がれた言葉もまた言わずもがな、
「ニャー?(どうした銀時?)」
という、猫の鳴き声だった。


「ったくどうなってんだよ」
お互いの姿に一通り驚いたところで、現状を確認する。布団の上で向かいあって座っている二人の頭には、揃って黒と白の猫耳が生えていた。
目を覚ました桂に指摘されて頭に手を伸ばせば、いつぞやと同じく薄い耳がくっついていて、銀時は自分の手で触るとこんな感じなのかと逃避ぎみに折れそうな薄い耳殻を指でなぞった。
最初は猫の鳴き声しか話せないのかと思っていたが、落ち着いて聞いてみると互いの声が人の言葉と猫の声の二重音声のようになっているのがわかった。 「ニャー」という猫のような声に重なってきちんと人間の言葉も聞こえるのだ。もしかしたら人間の耳と猫の耳二つあるせいでそう聞こえるのかもしれないけれど、 二人にできるのは推測でしかなく、どういう仕組みになっているのかなんて本当のところはさっぱり分からなかった。
とりあえずは、互いに何を言っているか分からないなんてことにならなくて胸をなでおろす。
他に気づいたことと言えば、何やら尻のあたりがもぞもぞと落ち着かず、もしやと思ってパンツの中を確認してみると白いシッポが収まり悪くパンツを押し上げていたことだ。
銀時はパジャマのパンツをずらしてシッポを出してやり、桂の寝巻は浴衣だったため仕方なしと腰より少し上程の位置に鋏を入れて小さな穴を作ってそこからシッポをひっぱり出すことにした。
おかげで現在二人の視界には互いのシッポがユラユラと揺れている状態だった。
「ちょっ、何これ。また猫の呪いってか」
「落ち着け銀時、ていうかこれスゴイ、肉球すごい気持ちいい。触ってたらなんか幸せな気分になるぞ、お前もやってみろ」
落ち込む銀時にお構いなしに、桂は自分の掌にできていたピンク色の肉球をさわるのに夢中になっている。
「バカ、やってみろじゃねーよ」
桂いわく家猫仕様だというやわらかい肉球のついた手で猫パンチを食らわせてやると、嬉しそうな顔をするのが忌々しい。銀時の背後でパタンパタンと尻尾が無意識に揺れた。
「なぁ、ヅラ、やっぱこれ昨日のアレのせいだと思う?」
「それしかなかろう」
嫌な予感を確かめるように聞いた銀時は、「貴様も夢で見たんだろう?こういうのを夢枕に立つ、というのだろうか」とのんきに言う桂に顔を引きつらせた。
「マジかよー」
いきなり猫耳シッポが生えた原因は間違いなく昨夜の夢の中にあるのだと思いいたって銀時は溜息をつく。
思わず両手で顔を覆うと、ひんやりとした柔らかな肉球がプ二ッと銀時の頬に当たって、それは桂の言うとおりマヌケなほどに気持ちのいい感触だった。




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